純喫茶

金沢は片町に43年も鎮座する喫茶店、「純喫茶・ローレンス」に行ってきた。五木寛之が金沢に来たときに必ず寄るというのが、このローレンスらしく、必然的にテンションも文学風になって、頭の中でストーリーを言葉で作り上げながら、階段を登り三階へ。

三階の階段を登るあたりから、壁の質感が、昭和〜大正的な雰囲気に変わり、ローレンスの扉を開けると、まるで、当時にタイムスリップしたような感覚を味わうと同時に、すすけた壁が、時間の流れを如実に物語っているような、そんな場所だった。

彼女とローレンスに行ったのだが、残念ながら、彼女は6時から行われる結婚式の二次会に参加することになっていたので、「ちょっとだけ雰囲気を感じたらパッと飲んでパッと行くわ」的なことを言って、我々がローレンスに着いたのは5時45分頃だったが、とある友人から、ローレンスではまずクリームソーダを頼めとの指令があったので、彼女はパッとそれを頼んだのだった。

およそ10分くらい待った後、出来上がってきた僕が頼んだコーヒーと、彼女が頼んだクリームソーダが運ばれてきた。

「はいどうぞ」

「いやあ、最近ね・・」

と、話を切り出した店主(以下ローレン主)に、ああ、なんか嫌な予感がするぞ、と思ったら、嫌な予感は見事に的中で、ローレン主は、黙れない病の患者だったのだ。

クリームソーダの作り方から、いかに昨今の原材料でオリジナルなクリームソーダを作るのが難しいかを経て、自分の趣味やテレビの趣向に至るまでの様々な些事についてを、ローレン主はこちらに息もつかせず次から次へと繰り出される鉄拳の如く浴びせてくる。もちろん、ローレン主に、こちらの都合などは伺い知ることはない。その間に間に、人のいい彼女は「ええ、ええ」などと相槌を返すものだから、ローレン主の話は止まらない。いや、実は、相槌に関しては、彼女が二次会に行ったあと、実験してみたが、相槌なしで、雑誌の方に目線を集中していても、構わずに話し続けていた。

そして、僕は、6時まで、刻々と過ぎる時間と、いっこうに減らない件のクリームソーダを見ながら、純喫茶の恐ろしさを知るのだった。